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21月 2022

患者さんの立場になって

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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どの仕事も同様だと思いますが、いろいろな人と出会います。子供から老人、職業も様々です。皆さん様々に理由があって医療機関を訪れるので、その理由を本人や同伴する家族から聴取する事になります。様々に理由があるとは書きましたが、多くの場合は大まかに言えば、何か困ったこと、“日常”とは異なることがあって相談したり解決するために医療機関を受診するのではないでしょうか。そうなると、我々医療者側にとってとりあえずの目標は、受診者にとっての“日常”を取り戻すことになるでしょう。そのためには受診者の“日常”を想像するよう心がけなければなりません。

 

1人1人を診察する上での気づきとは?

自分も同じ経験をしたことがあれば想像しやすいのですが、そうもいきません。私は今34歳なので、「70歳・80歳になったことがない」点では、70歳代、80歳代の日常や普段の体調を真の意味で理解することは出来ません。「あなたみたいな若い人では分かりませんよ」と言われたら反論しようもありません。これは研修医1年目の頃から感じていたことでした。と同時に「そんなこといっても仕方ない」とも思っていました。患者さんより年上でなければ、人生経験が豊富でなければ、診察できないなんて言い出すと医療は成立しません。

それから数年経ったころに、さらに1つ気づいたことがありました。「そもそも相手が同年代や年下の人であっても、自分は本当の意味では相手を理解できていない」ということです。夜の救急外来で、自分とほぼ年齢が同じ20代半ばの人たちを診察することが度々ありました。総じて若いので、蓋を開けてみればかぜや腸炎などの疾患が多く、脳卒中とか心筋梗塞などはとても稀です。その人たちに病院受診までの経緯を問診するわけですが、「それはわざわざ病院受診するほどのことだったのか?」と内心思ってしまうこともありました。

ただ、あるときに特にきっかけは無いのですが、ふと「自分がもし医学部に入らず、医学について素人だったとして、同じ症状を起こしたとき病院を受診せずにいられただろうか……いや、受診したかもしれないな」と思ったのです。他にも、自分と同年代で悪性腫瘍に罹患した患者さん達を長らく担当していました。悪性腫瘍にかかるという非日常体験を、悪性腫瘍にかかったことのない私が(仮にかかったことがあったとしても)、いくら同年代とは言え、真の意味で理解することはできないわけです。なのでなるべく想像したり、世の中には人それぞれの「当たり前」があるからいろいろな「当たり前」を知ろうと思いました。

 

 

 

それぞれの「当たり前」を知ることによって

この仕事をしていると、自分と世間一般の「当たり前」にズレが生じているとよく感じます。そのズレの一部は、医療従事者なら当然であっても、世間全体で見れば必ずしも当然では無いものです。最近ネット掲示板で、「恥ずかしいけどコロナ禍になって初めて知ったことを書け」というタイトルのスレッドを見ていました。自分が驚いたのは新型コロナウイルスPCR検査法についての書き込みでした。「最初のうちしばらく、PCR陽性の方が良くて、陰性の方が悪いと思っていた」というものです。理由は「陽の方が、陰よりも明るくて楽しいニュアンスの言葉だから」でした。そしてスレッド全体からみれば少数ではありましたが、その書き込みに「俺も」「私も」と賛同するコメントが数件ついていました。私は「なるほど、そういう捉え方があるのか」と素直に感心してしまいました。専門用語の解釈も、詳しい説明を抜きにすると医療者と患者の間で食い違ってしまう可能性があります。なるべくそういった食い違いを減らせるように、患者さんが疑問を抱いているようならそこをすくい上げられるように心がけたいと思います。

 

Author:今岡 慎太郎


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