「指輪っか」によって衰えに気づき、自立した生活を送りましょう
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からだが衰えはじめた自分自身に気づく
人と長く接触しない生活が続き、外に出るのがおっくうになっていないでしょうか? 何となく疲れやすいと感じておられないでしょうか? 歩きが遅くなり、信号が変わるまでに交差点を渡りきれないことはないでしょうか? 何かにつかまらないと椅子から立ちあがれないということはないでしょうか?
もしそうだとしても、年のせいだと思ってあきらめていないでしょうか?
生活に支障がないと思って、見ぬふりをしていないでしょうか?
今日は、このようなからだの衰えにできるだけ早く気づき、末永く自分自身で生活し続けるために、東京大学で考案された「指輪っか」による健康チェックについてお話しします。
指輪っかによる健康チェックとは
指輪っかによる健康チェックとフレイル(虚弱)との関連に関しては、以下の記事にくわしく書かれています。
まず、椅子に座りズボンを膝まで上げて靴下を足首までおろしてください。
そして、両方の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分をつかみます。読者の多くは、4本の指で作った「指輪っか」でふくらはぎを囲めないだろうと思います。一方、ふくらはぎを囲むことができ、さらにすき間ができる人もいらっしゃるでしょう。
指輪っかよりもふくらはぎが細い人は要注意
東京大学(高齢社会総合研究機構)が千葉県柏市で行った調査によると、ふくらはぎが細いために、4本の指でふくらはぎを囲める人は囲めない人と比べて転びやすく、病気にもかかりやすいこと、さらには介護が必要となる可能性が2倍以上と高いことがわかっています。
とくに住み慣れた家やその周りで転んで太ももの付け根を折ると(大腿骨近位部骨折など)、手術をしなければ寝たきりになる可能性が高く、その後の機能回復(リハビリテーション)に耐えながら家に戻るまでの長い道のりが続きます。
さらに、筋肉がやせている人は食物をかんだり飲み込んだりする力も弱く、肺炎をはじめとする感染症などでいっそう足腰が弱る悪循環におちいります。人と接することもおっくうになり、家にこもり、病気で倒れても人に気づかれないこともあります。
足腰が弱ってきた人は、自分で体力をたもつための工夫を
散歩など、外で運動することは不要不急ではなく必要な日常動作です。日光にあたることで体内のビタミンDが増え、骨が強くなります。運動は足踏みやスクワット、テレビ体操でも結構です。自分の体調や家屋・広場などの環境にあわせて体力を維持するように心がけましょう。
年齢を重ねて体重が落ちても、内ぞうの脂肪は減らず筋肉だけがやせ、体液もうばわれていきます(脱水)。そのため、バランスの良い十分な栄養をとること、とりわけ筋肉の元になるたんぱく質が重要です。肉類がかみにくい場合は、魚介類、豆、乳製品、栄養補助飲料などで広くとることをお勧めします。なお、腎ぞうに病気のある場合はたんぱく質を摂りすぎないことが必要ですので、医師または栄養士と相談してください。
歯みがきや口をうるおすこと、自分の歯で噛むことも重要です。口の中が汚れたり乾燥したりしていると、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。感染症などの炎症は、手足の筋肉の力をうばっていきます。高齢の方は虫歯があっても痛みを感じないことが多いです。痛みがなくても、定期的に歯科に通院しましょう。
高齢者の多い日本特有の風潮 ー「年だから」と「人まかせ」
医療者の一部には、年齢が高いことを理由に患者さんに本来必要な支援を怠る人がいます。また、説明しても理解できないだろうと思い込み、本人を無視して家族にだけ説明する人もいます。家族の中にも肉親が転ぶとあぶないと思い、生きがいであった趣味、農作業などを奪い、生活の範囲がせまいのにもかかわらず車を運転しないようせまる人がいるのも、残念に思います。
その一方で、ご高齢の方の中でも、家族や他人に迷惑をかけたくないと思い、子息や周りの方々に遠慮しすぎる人がおられます。また、弱った自分に人はやさしく手をさしのべてくれるだろうとあてにして、自分で健康的な生活を目指すことを怠る人もおられます。
このように、高齢者大国である日本は高齢者に対して厳しく、一部の高齢者自身もそれに甘んじている可能性があります。高齢者に対する年齢差別や不平等は「エイジズム」といい、ヨーロッパ(EU)では2006年、アメリカでは1969年にエイジズムを厳しく取りしまる法律が制定されています。
以前筆者は、「4つの「助」によりささえあう」というブログで、自助が最も重要であり何でも人まかせではいけないと申し上げました。そのために、筆者は医療および社会における「年だからしょうがない」という風潮を変えたいと考えています。
読者のみなさん、「指輪っか」により心身の衰えにできる限り早く気づき、可能な範囲で体を動かし、しっかりと栄養をとってください。こうして、末永く自立した生活を過ごしていただきたいと願っています。
Author:浜田 紀宏
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