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311月 2021

新型コロナウイルス感染症のワクチンについて

鳥取大学地域医療学講座発信のブログです。
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今回はがっつりアクセス数を意識した記事を書きます。

昨今話題の新型コロナウイルスワクチンについてです。

日本政府は新型コロナウイルスワクチンの接種を2月末から医療従事者、高齢者、基礎疾患を持つものなど順次開始する予定です。

日本で接種予定可能となるワクチンは今のところ3つ。いずれも非常に高い効果を発揮しています。

開発会社 ファイザー社(米国) モデルナ社(米国) アストラゼネカ社(英国)
ワクチンの種類 mRNAワクチン mRNAワクチン ウイルスベクターワクチン
ワクチンの効果

(vaccine efficacy)

95.0% 94.1% 90.0%
接種方法 筋肉注射、合計2回

(3週間隔)

筋肉注射、合計2回

(4週間隔)

筋肉注射、合計2回

(4週間隔)

主な副反応 局所の発赤66-83%

アナフィラキシー
11.1件/100万接種

局所の発赤88.6%

参考:N Engl J Med. 2020 Dec 31;383(27):2603-2615.

参考:N Engl J Med. 2020 Dec 30:NEJMoa2035389.

参考:Lancet. 2021 Jan 9;397(10269):99-111.

 

 

ワクチンの効果について

ワクチンの効果について詳しく解説しましょう。

“ワクチンが90%の効果”とか“95%減少”とか言っていることには注意が必要です。

打っても5%の人が感染するわけではありません。例えばワクチンを打たない人が1万人いてそのうち100人が感染する場合、同じ町にワクチンを打った1万人がいるとそのうち5人しか感染しないということです。さらに重症化の予防効果(約90%以上)も明らかになっていますし、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいハイリスク者(高齢者など)への高い効果(高齢者に90.9~94.7%など)も明らかになっています。(イラスト参照)

例えば東京都1400万人のうち、これまでに約10万人(2021年1月31日現在)が感染していますが、感染した人が全員予防接種を打っていれば個人への効果だけで5000人程度になっていた可能性があります。

東京都民全員がワクチンを打っていた場合、東京都全体で集団としての免疫が働き、新型コロナウイルス感染が全く広がらなかった可能性もあります。これを集団免疫効果と言いますが、(まだ調べようがないところもあって)これに関してはまだ科学的に明らかにはなっていません。

同様にワクチン自体が夏頃以降に臨床試験を実施されたばかりなので、長期的な効果も明らかになっていません。そもそも新型コロナウイルス感染症自体が登場して約1年しかたっておらず、10年後の後遺症があるかどうかは誰にもわかりません。ただ、だからと言ってうたないで新型コロナウイルス感染症の流行に対してワクチンを打たない方がいいかと言われれば、絶対に打った方が良いと思います。

 

 

ワクチンの副作用について

世間ではさまざまな噂が、(特になぜかワクチンでは)立ちがちです。

きちんと医学を勉強したものからすれば、なぜワクチンだけ殊更話題にされるのか、ワクチンが問題となるならば通常の降圧薬や抗生物質はもっと副作用が多く“危険”なはずです。

例えば今回の新型コロナウイルスワクチンの現在報告されている副作用は、大きなもので10万人に1人程度発生すると言われるアナフィラキシーショックがあります。

ちなみに風邪引いた時に患者さんがよく「抗生物質を出してくれ」と言われることがありますが、代表的な抗生物質であるペニシリン系抗菌薬は最大10%(入院患者の場合15%)がアレルギーを持っていると言われます。アレルギーの重症型と言えるアナフィラキシーはペニシリンの内服の場合20万回に1回、点滴などの場合10万回に10~40回程度の頻度で発生するようです。

参考:UpToDate Penicillin allergy: Immediate reactions. https://www.uptodate.com/contents/penicillin-allergy-immediate-reactions (2020-1-26 accessed)

 

2021年1月25日時点で東京都では約1400万人の人口に対し累計約9.5万人の感染者がこれまでいます。これはコロナウイルスに感染する確率が10万人あたり約6.8%であることを意味します。今後も終息の見通しなく感染が拡大する中でワクチンを打たないリスクに比べ感染して死亡したり重症化したり後遺症が残ったり、周囲に感染を拡大したりするリスクの方がはるかに高いことが明らかです。

ちなみに局所の発赤とはインフルエンザなどのワクチンでもそうであるように、注射を打ったところが虫に刺されたように赤くなったり、少し腫れて痒くなったりすることです。

 

 

ワクチンの開発について

今回、新型コロナウイルスが発見されてから約1年という信じられないくらい早いスピードでワクチンが開発されたことを心配される人がいるかもしれません。しかし、これはmRNAワクチン新しい手法を用いたこと(さらに世界中の人々が凄まじい努力をしてここまで持ってきたこと)が大きく関与しています。これで大きな効果、成功を納めたらこの手法を開発した人はノーベル賞をもらえるのではないかと思います。ま、それ以上の貢献と言えますが。

mRNAはメッセンジャーRNAというタンパク質を合成するために用いられる遺伝情報の“端末”で、通常は細胞の核から出てきて細胞の中でアミノ酸からタンパク質を作っていきます。

つまりヒトの細胞はmRNAという情報端末の指令のもとタンパク質を作ることができます。これはこの10年20年で格段に進歩した遺伝子工学があって初めて実現した技術と言えます。

これまでのワクチンは、弱毒化した病原体や病原体としての機能は持たない断片を注射することで体に記憶させて免疫を獲得してきました。いわば人相書きを直接500部とか1000部とか配って指名手配することで体の中で病原体が増えないように治安を守ってきました。

今回のmRNAワクチンは病原体のタンパクを作る印刷所を導入するようなもので、人相書きが注射された人の中で勝手に増えていくことになります。mRNAは自己増殖能力がないために、人の体内で勝手に増えることもなければ、生成されたタンパクは断片に過ぎず感染性はありません。

いわば印刷所を体内に作っても、印刷所が体内で勝手に増えていくこともなければ、印刷された人相書きで治安が悪化することもありません。

参考:Nat Rev Drug Discov. 2018 Apr;17(4):261-279.

 

 

最後に

以上が簡単な新型コロナウイルスワクチンの現時点での説明でした。

この危機的な状況にワクチンを打たない選択肢はないと99.9%の医師や専門家は同意するはずです。しかしそれを強制はしませんし、個人的にも強制するものではないと思います。なぜなら民主主義において基本的人権や個人の自由をそれほど尊いものだと思うからです。

実はワクチンを打つことに関して、インフルエンザワクチンなども同様ですが、その効果への期待以上に社会的責任、別の言い方をすればかかった時に言い訳がきく、世間体を気にすると言ったネガティブな社会性がモチベーションの源になるかもしれません。そう言った意味で副作用は現時点で気にするほど大きくない(他の薬より少ない)し、社会を守る、家族を守るためにぜひ接種を進めてほしいと思います。

 

Author: 朴 大昊


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