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1312月 2020

可能性について

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「私たちには素晴らしい未来を作る力があります。私は最初の女性副大統領になるかもしれませんが、最後ではありません。今夜見ているすべての少女が、この国は可能性にあふれていると知るでしょう」

2020年11月7日、女性で初めてのアメリカ副大統領となるカマラ・ハリス上院議員は力強く、輝くような笑顔でこう語った。

私はそれを生配信で聞いていて、このアメリカという国は多くの問題を抱えている沈みゆく大国でありながら、やはり素晴らしい国だと感じざるを得なかった。「可能性」という概念が基本理念としてインストールされている国は、世界でどれだけあるのだろう。

 

ルソーがみた「可能性」が革命へとつながった

「可能性」とは、辞書によれば

1. 物事が実現できる見込み

2. 事実がそうである見込み

3. 潜在的な発展性

などを意味する(デジタル大辞泉より)。

カマラ・ハリスが述べた「可能性」は、もちろん「潜在的な発展性」のことを指している。単に、予測できる範囲内での見込みという意味ではない。

この、まだ顕在していない萌芽のような存在、いまある存在の別のあり方、すなわち「可能性」を想像する力は、人類の歴史をこれまで何度も変えてきた。

かつて、絶対王政が当たり前だった中世ヨーロッパの時代、民衆は王侯貴族の重税や搾取にあえいでいた。王権は神から授けられたものであり、それに逆らうことなど、夢にも想像できなかったはずだ。

その国家の主権が、王のものではなく、実は人民のほうにあるという可能性を示したのは、ジャン=ジャック・ルソーという一人の男であり、彼の「人民主権」という思想が、ついにはフランス革命へとつながったのである。

 

 

「可能性への盲目さ」は何をもたらすのか

可能性を想像する力を失うと、私たち自身にも深刻な影響を及ぼしてしまう。

例えば、抑うつというのは、生物医学的に考えれば、ある種の神経伝達物質の不足ということになるのであろうが、心理学的な説明としては、考え方(認知)の選択肢が非常に狭くなっている状態である。つまり、可能性を想像する力が非常に弱くなっているということだ。ある意味、「可能性に盲目な状態」と言えるだろう。

自殺をしてしまう人の多くにうつ状態が合併していることは周知の事実であるが、周りからみるとそうでなくても、本人は自殺しか解決法がないような認知状態へと落ち込んでいる。自殺以外の選択肢(可能性)が見えなくなっている状態なのである。

あるいは、私たちの中で、価値観・信念の対立が起きたときに、その解決法がまったく思い浮かばず、膠着状態になってしまうことも多い。「Aが良い!」と主張する人々と「Aでは駄目だ。Bが良い!」と主張する人々の対立は、CやDやXというその他の可能性に対してある種、盲目になってしまっている。AもBも最適解ではないという可能性、自分が信じていることがもしかしたら正しくないかもしれないという可能性を、人は常に思い起こすべきではないだろうか。

 

 

無限の可能性を開くものとしての「他者」

エマニュエル・レヴィナスという人は「他者」という存在について考え抜いた哲学者であった。彼はユダヤ人であり、ホロコーストの被害を受けた自身の経験から、なぜ人類は全体主義という恐ろしいものを生み出してしまったのかを考えた。全体主義とは、ある種の思想(例:国家主義)に対立するものをすべて排除する考え方のことである。つまり、自己の思想に合わない「他者(=非自己)」を排除するのである。

しかし、想像してみてほしい。社会全体に、あなたと同じ考え・思考・行動様式の人々しかいないような世界を。それは、はたして理想的な社会であろうか。むしろ、発展する余地のない静的で退屈な世界、余白や遊びのない、「可能性」を喪失した世界ではないだろうか。

レヴィナスは、「他者」とは常に自己の想像を超えてくる存在であり、決して理解できない存在であると考えた。だからこそ、問いかけ(対話)が成り立つ存在であって、「他者」とは無限の可能性を開く扉のような存在と考えたのである。

 

 

可能性の扉をノックし続ける

私たちが、可能性を開くためには常に「他者」を必要とするということ。つまり、可能性を失わないために、私たちは常に、自分が理解していない世界、「他者」という未知の扉を開くことを恐れてはいけない。

私は、もうダメだと思ったり、うまく行かないことに苛立ちや怒りを覚えたりするときに、この可能性の扉のことを考えるようにしている。今、自分に見えている世界は限られた世界だということ、今、自分には想像もつかないような世界(認識・考え方)が実は存在するのだということ。

 

コンコン。その扉の向こうには、何が見えますか。

 

Author: 孫 大輔


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