高齢者の医学について考える
鳥取大学地域医療学講座発信のブログ「地域と医療のいま」です。
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2018年3月10日(土)、日野町根雨地区にて、「根雨地域座談会」を開催いたしました。
今回のテーマは「高齢者の医学(老年医学)」についてです。
講師は日野病院で週1回外来診療の担当をしているわたくし朴が務めました。
皆さんどれくらいご病気をお持ちですか
膝が痛い、消化器が悪い、定期的に薬を飲んでいるなど、皆さんなにがしかの病気を患っていると思います。
イギリスの研究から引用しますが、年齢を追うごとに病気を持っていない人が減っていき、75歳くらいになると病気を患っていないという人は僅か一割まで減ります。
細かく見ると75歳以上の高齢者は平均して3つ~4つの病気を患っているというデータまであります。
ひとつひとつ治療することは大変で効果も!?
血圧が高ければ血圧を下げる薬を、糖が高ければ糖尿病の薬を、肩が痛ければ痛み止めの薬を、症状にあわせて飲まれると思います。
ただ、病院で医療に携わっているとその対応にも限界を感じることがあります。
例を出すと、
79歳女性
- 高血圧
- 糖尿病
- 膝が痛い(骨粗しょう症)
- COPD(肺気腫)
という患者がいたとしましょう。
この方の高血圧、糖尿病などひとつひとつの症状をガイドライン通りにバッチリ治療するとしましょう。
その為には1回に飲む薬の量は10個ちかくになります。
薬と水だけでお腹がいっぱいになり今度はご飯が食べられなくなってしまいます。
今度は「食欲が無く、ご飯が食べられない」と来院するようになります。
また、薬以外にも関節を守る、カロリーの制限、塩分を控える、運動もしなければいけない、関節の可動域を維持するためにストレッチと、もううるさいくらいの制約が課せられます。
さらにその方を検査する医者も大変です。
患者さんへの指導、予防接種、尿検査、血圧測定と診なければいけない数値、やらなければならないことが山積します。
ただこれだけ頑張って治療して高血圧や糖尿病の数値を下げても、逆にそれで死亡率が上がってしまうという、本末転倒なことになってしまうこともあるのです。
問題は何のために治すか
実は”病気を治療すること”ではなく、”治療して何がしたいか”が重要ではないのでしょうか?
例えば、オリンピックに出たいスポーツ選手が足を怪我をした場合は、足を治すためではなく、次のオリンピックに出るために治療をするハズです。
これは高齢者の治療にも当てはまることで、5年後10年後に歩いて買い物に行きたい、歩いてご近所まで行きたいという想いがあって初めて治療する意味が出てくるのです。
一個一個出てくる病気を出てくる蚊をつぶすように治療しても切りがありませんが、何をしたいか目標を定めることによって治すべきところが明確になります。
高齢医療は何のために治すかが重要になります。
もう一度そこを見直して治療の目的をしっかり定めて治療していきましょう。
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