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55月 2023

良い医者とは何か?

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 2023年4月から医学科長を拝命した。思いがけない任命で最初は戸惑ったが、鳥取大学医学部への恩返しのつもりで引き受けることにした。医学科長の主な仕事は、学科運営会議(医学科教授会)の司会、教授選考の運営、入試や進級、その他の学生イベントへの参加、そして課題をかかえる学生のサポートである。はじめは教授会や教授選考が重荷かなと思っていたが、前学科長からの申し送りを聞くと、留年生や国試不合格者のフォローも大変な仕事とのことだった。今まで、地域枠の学生で留年した人と話したりしていたが、留年はもとの学年集団から離れることでもあり、当事者にとってはかなりのストレスとなる。それに、少数の科目で留年した場合、休学するなどして、生活習慣が乱れることもある。日頃から接している学生なら話もしやすいが、顔もよく知らない学生は、いきなり「元気にやってる?」と声掛けするのも難しい。ここは一人で頑張るのではなく、学年ごとのチューター教員が留年者をフォローできる体制を作らねばならないと思いいたった。チューター制度は、学生15名程度に基礎系・臨床系から1名づつ割り当てて、6年間とおして学生支援をおこなう制度である。しかし、直近のコロナ禍の3年間は、飲み会などのイベントもできずまったく稼働していなかった。コロナも沈静化してきたので、ここでいったん巻き直してチューターと学生の距離を縮めるようなアクションをとったほうがよいと考えている。留年生のサポートも、その流れでやってもらいたい。

 

 

「良い医者とは何か?」を考えたときに出た答えとは?

 さて、昨日は医学科新入生のオリエンテーションがあり、医学科長として挨拶をおこなった。前任から引き継いだ「医学科の紹介スライド」を使っての10分間のプレゼンである。スライドをみると、鳥大医学部の歴史や特徴が列挙され、先端医療だけでなくコミュニケーションを重視したカリキュラムが紹介されていた。そのなかに、「良い医者とは何か?」という問いがあり、「Head,Hand, Heart」を磨けというメッセージがあった。私は、良い医者とは何かと問われ、こんなにスッパリと答えられないなと思った、というより、なにかつよい違和感のようなものを感じたのである。Head (知)、Hand(技)、Heart(心)、いずれも医師にとって大事なものに違いない。カリキュラムも知識→手技、それと並行して態度教育も入っているので、すべてパッケージされて目標に到達できるように見える。でも、本当にそうなのだろうか。良い医者とは何か、患者のことを第一に考える、共感できること、科学的であること、EBMにもとづいた医療、知識を更新できること、などなど。つらつら考えるうちに、「学び続ける人」というフレーズがいちばんしっくりくるように思われた。家庭医療では省察的実践という表現をするが、仕事のなかで生まれた疑問を考える、いろんな資料やフレームをもとに考える、いったん答えがでるが、それは仮の答えであって最終回答ではない。この、とりあえずの感覚、テンタテイブともいうべき姿勢こそが、学び続ける心構えではないのか。「良い医者とは〇〇だ、これが正しい」と結論づけてしまえば、もう迷わない、でもそれは自己省察をやめることでもある。迷い考えること、自己省察すること、それをやめたとき、良い医者への門は永遠に閉ざされるのではなかろうか。

 

 

育てていきたい人材

 でも、実際には教育目標があり、それを実現するためのカリキュラムがある。目標が、良い医者であり、その定義がHead, Hand, Heartであるなら、それを細分化して組み立てていく教育工学的なプロセスは必要かもしれない。私としては、「良い医者とはHead, Hand, Heartの整った人だ」という言明に、一石を投じる学生、そういう人材を育てたいと思うのだ。ちょっと、へそ曲がりなのかもしれないが、自分の頭と心で思考できる人、自分すらも批判できる人、そういう人こそが未来を開拓できる人材だと信じているのである。だからやっぱり、私のとりあえずの答えは、「学び続ける人」でいこうと思う。でもこう書きながら、何を、どこで、どのように、「学び続けるの?」とツッコミを入れる自分もいるのである

Author:谷口 晋一


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